『難病対策の形成と変容−疾患名モデルによる公費医療のメカニズム』(東京大学出版会)が刊行されます(渡部)
2023/06/14
特任研究員の渡部です。このたび、博士論文を基にした単著が刊行されます。
渡部沙織, 2023, 『難病対策の形成と変容−疾患名モデルによる公費医療のメカニズム』東京大学出版会.
本書は、戦後の日本で難病政策とその公費医療が形成された過程を、研究医や国の研究班、国立療養所や国立病院などに着目し、主に公的資料や統計資料に基づいて歴史社会学と医療社会学の観点から分析・記述したものです。
難病の領域では、国民皆保険を通じて全ての国民の健康と生命を幅広く保障する一般医療政策とは異なる形態の公費医療政策がおこなわれてきました。戦後の皆保険制度の中で難病政策が公費医療/研究事業としてどのように萌芽し、その役割を果たしてきたのかを検証しています。
また、制度を実践する空間として、旧国立結核療養所の国立病院などに設けられた難病病床について、その実相を病床統計の推移から検証するとともに、様々な研究班の資料や病院史、医師のオーラルヒストリーなども含めて記述しています。終戦直後に日本に化学療法がもたらされたことにより結核が治癒できる疾患となり、疾患構造の急速な変化とともに旧国立結核療養所が主に神経難病の患者を受け入れる難病病床へ変容していきました。これまで医療政策研究であまり明らかになってこなかった国立療養所や国立病院などの日本の公的病床と難病の歴史的な関係について、歴史社会学的な分析をおこなっています。
大学図書館などでお手に取って頂ける機会がございましたら、ご高覧を賜れましたら幸甚です。
目次
序章 福祉国家の保険制度と難病政策
- 戦後の福祉国家における難病政策
- 難病対策要綱体制と疾患名モデル
- 先行研究の検討と本書の視座
- 分析方法と資料
第1章 医科学研究事業としての公費負担医療の萌芽:スモン対策から難病へ
- 先行研究と視点:公費負担医療の正当化論とスモン対策
- 国費研究班の組織化
- スモン研究班の変容
- 特定疾患スモン調査研究班への移行
第2章 研究医と難病病床:国立療養所の病床構造転換
- 先行研究と視点:戦後の国立療養所・国立病院の病床構造
- 国立療養所宇多野病院にみる難病病床の変遷
- 疾患名モデルの存立基盤:研究医の志向と国立療養所の転換
- 国立療養所の病床構造の統計推移
第3章 疾患名モデルとその拡張
- 先行研究と視点:疾患名モデル
- 医療費助成から福祉事業へ:研究事業と財政拠出の多様化
- 2000 年代、対象拡大と財政制約
- 社会保障化と患者負担:対象拡大の代償
第4章 難病政策の国際的な三類型:疾患名モデルに基づく難病政策の展開
- 先行研究:医療政策における難病政策の位相
- 欧州の難病政策とその形態
- 米国の難病政策とその形態
- 難病政策の三類型
終章 日本型難病モデルの行方
一次資料(統計資料 図書資料)
付表 難病の研究班の推移