Orphanet Journal of Rare Diseases誌に希少疾患に関する意識調査の論文が公開されました(渡部)

2023/08/31

一般市民を対象とした、希少疾患への理解と医療資源の配分に関する意識調査の論文がOrphanet Journal of Rare Diseases誌で公開されました(オープンアクセス, PDFのDL可)。

 

Nakada, H., Watanabe, S., Takashima, K. et al. General public’s understanding of rare diseases and their opinions on medical resource allocation in Japan: a cross-sectional study. Orphanet J Rare Dis 18, 143 (2023).

https://doi.org/10.1186/s13023-023-02762-x

 

希少疾患は患者や家族に多大な経済的負担を強いる可能性がありますが、公的支援のための持続可能な制度を確立するためには希少疾患の特性や困難性に対する国民の理解が不可欠です。私たちの研究グループでは、日本の一般市民131,220人を対象に、希少疾患に対する知識や理解、医療費や研究開発に関するwebアンケートを用いた質問紙調査を実施しました。

得られた有効回答11,019回答を分析し、希少疾患の医療費や研究開発に対して公的資金による支援を国が行う事について、一般市民がどのような認識を抱いているかについて傾向を示しました。成人および小児の希少疾患の患者の医療費自己負担の一部を公的資金によって補助する事については、賛成する回答者が多く見られました(成人:59.5% , 小児:66.8%)。賛成の理由は主に、患者とその家族に多大な経済的負担が生じること、利用可能な治療の選択肢が限られていること、患者のライフプランや社会生活に希少疾患によって引き起こされる困難が影響を及ぼすことなどが挙げられました。

また、希少疾患の研究開発に対する国による公的資金の支援については、患者数が多い一般的な疾患の研究開発に対する国による支援への評価よりも、よりその必要性について評価した回答者が多くいました(一般的な疾患44.0%, 希少疾患56.0%)。希少疾患の研究開発に対する公的資金による支援を支持する理由としては、治療の選択肢が限られていることや、研究者が少ないために研究がしにくいことなどが挙げられました。

本調査の結果の分析からは、一般市民は希少疾患に対する公的支援の必要性について、希少性や遺伝性などの疫学的・医学的特徴よりも、患者や家族の日常生活での困難性や経済的負担をより重視して考慮している事が示唆されました。また、希少疾患の専門家と一般市民との間では、疫学的特徴や希少性を定義する人口的な閾値についてイメージや認識の差異が生じていることも結果から明らかとなっています。医療費や研究開発に対する財政支援が社会で適切に議論され受け入れられるために、複雑で多様な希少疾患の特徴やその政策について、市民とどのようなコミュニケーションを積み重ねていくべきか今後議論が必要であると考えています。