2020年第7回公共政策セミナー

2020/12/02

本日第7回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:12月2日13時半~16時頃

発表者1: 張 有沙(東京大学大学院学際情報学府文化・人間情報学コース修士課程修士課程)
タイトル: 日韓における新型コロナウイルス感染拡大対策アプリの社会的位置づけ:感染拡大防止とプライバシーリスクのバランスをめぐって

要旨:

新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、スマートフォンアプリを活用する対策が世界各国で進められている。日本・韓国はともに、最初の大規模な感染拡大(第1波)の制御後、それまでの封じ込め対策から緩和対策への方向転換において、国による感染拡大対策アプリの導入がなされた。導入から5カ月が経過した現在、日本ではその有効性に疑問が呈されている。対して韓国は、アプリを含めた様々な政策によって感染者制御に成功した国として評価されている。日本と韓国のアプリは、その設計において「プライバシー保護」の観点から明確な違いがみられる。プライバシー保護への最大限の配慮をうたうCOCOAに対して、韓国のアプリは個人の同意を要しない追跡・特定・監視を可能にした。果たして、感染拡大防止のために、市民のプライバシーリスクをどこまで受容できるのだろうか。日本は2021年の東京オリンピック開催を目指し、更に市民の生活に踏み込んだ対策の検討が進められている。先んじて市民のプライバシー保護よりも感染拡大防止を優先させてきた韓国との比較を通じて、スマートフォンアプリを用いた日本の感染防止策のあり方を検討したい。本報告では、日本・韓国市民を対象とした質問紙調査を前に行った、両国のプリ導入の経緯、感染症対策法におけるプライバシー保護・人権保護の取り扱い、ITC政策実績の比較を共有する。

発表者2: 須田 拓実(東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻修士課程)
タイトル: 医療における「通訳」の役割と音声翻訳ツールへの期待・懸念

要旨:

外国人医療における課題の一つに「言語」がある。医療者/医療機関は可能な限り多言語対応を行いつつ、より外国人患者の医療アクセスを認めるべきとする議論があったが、一方で医療者の負担が大きくなる等の課題が指摘されてきた。そのような中、音声翻訳アプリ・デバイスへの期待が高まり、医療現場での利用を想定したツールの開発・普及が推進されてきた。しかし、通訳倫理の中での「医療通訳者(人間)の役割」に関する議論を踏まえた、今後の医療通訳者と音声翻訳ツールそれぞれの在り方の検討は進んでいない。本報告では、医療通訳者の役割や音声翻訳ツールへの期待・懸念について、医師を対象に実施した調査の結果を共有し、音声翻訳ツールの主たるユーザーである医師が外国人患者対応で認識している課題やニーズを検討する。

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2020年第6回公共政策セミナー

2020/11/11

本日第6回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:11月11日13時半~16時頃

発表者1: 井上悠輔(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 准教授)
タイトル: 感染症法における「国民の責務」とコロナ禍

要旨:

感染症への政策対応の一環として、市民個々人の果たすべき役割が改めて注目されている。公衆衛生における自助努力と強制との境界はときに曖昧である。また、こうした自発的な努力を求める姿勢は一方でvictim-blaming(被害者非難)につながりやすいとの指摘(Holland S. 2007)は、残念ながら現状にも当てはまっているように思える。この話題提供では、感染症法第4条の「国民の責務」の規定を素材に、我が国の感染症が辿ってきた経緯を、特に感染症法成立前後の制度の比較を軸に検討する。特に留意したいのは、共同体の一員としての個々人にはどのような役割や責任が期待されるのか、という点である。感染症法は、過去の出来事の反省が込められた法律である(少なくともそう謳っている)。一方、当時想定していなかった点、十分に議論できていなかった点も見受けられ、コロナ禍に学ぶものも多くある。罰則の強化をめぐる議論もある中、改めて感染症と市民の役割を考える時間としたい。

発表者2: 永井亜貴子(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 特任助教)
タイトル: 都道府県におけるCOVID-19に関する情報公表の実態と課題

要旨:

厚生労働省は、2020年2月27日の地方自治体への事務連絡で、COVID-19を含む感染症法上の一類感染症以外の感染症に関わる情報公表について、エボラ出血熱の国内発生を想定して作成された「一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本方針(以下、基本方針)」を踏まえ、適切な情報公表に努めるよう求めている。日本では、地方自治体が公表した情報や報道により生じたCOVID-19のスティグマが問題となっていると報告されているが(Yoshioka and Maeda,2020)、地方自治体がCOVID-19に関してどのような情報を公表しているかは明らかではない。本報告では、都道府県におけるCOVID-19に関する情報公表の実態について調査した結果を報告し、情報公表における課題について整理・検討を行いたい。

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第2回患者・市民参画研究会を開催します

2020/11/10

病気や健康をめぐる研究開発の現場では、研究する側、される側の垣根を超えたパートナーシップのもとに、より良い研究を目指す「研究への患者・市民参画(PPI)」が注目を集めています。
では、PPIとは具体的にどのようなことを指すのでしょうか。国内では、誰がなぜ、どのように進めており、誰の参画が求められているのでしょうか。日本に適したPPIのあり方とは、そしてPPIが目指す「より良い研究」とは一体どのようなものなのでしょうか。参画すること、あるいは参画して頂くことに関心を持った場合には、どうすればよいのでしょうか。

そこで、PPIに関する知識を得たり、情報共有や意見交換を行ったりする場として、「患者・市民参画研究会」を企画しました。公共政策研究分野は、共催組織として参画しております。
国内において、このような場は極めて限られた状態にありますが、環境整備の第一歩になればと考えています。

今年度は、「脱・貴重なご意見ありがとうございました」というテーマを掲げ、シリーズ企画で開催します。
第2回目は、ラジオ形式で、体験談を共有しながら皆で一緒に、患者・市民参画について考える回です。

詳細・申込については、以下のURLをご参照ください。皆様のご参加、お待ちしております(申込〆切:11/30(月) 0:00)。
https://ppijapan-webinar-201130.peatix.com/

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「患者・市民参画(PPI)ガイドブック」を読む会を開催します

2020/11/10

病気や健康をめぐる研究開発の現場では、研究する側、される側の垣根を超えたパートナーシップのもとに、より良い研究を目指す「研究への患者・市民参画(PPI, Patient and Public Involvement)」が注目を集めています。

しかし、「PPIという言葉や考え方に興味はあるけれど、まだあまりよく知らない」という方も多いのではないでしょうか。

日本医療研究開発機構(AMED)は、2019年4月に、
「患者・市民参画(PPI)ガイドブック ~患者と研究者の協働を目指す第一歩として~」
というガイドブックを刊行しました。

今回は、原案作成を担当した3名を中心に、PPIを理解する第1歩となるような、オンライン・イベントを企画しました。ぜひ、気軽にご参加ください。

研究者の方のみならず、患者・市民、医療者など、多様な立場の方を歓迎します。

詳細・申込は、以下のURLをご参照ください(申込期限:11/24(火)18:59)。

https://ppiguidebook-webinar-201124.peatix.com/

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2020年第5回公共政策セミナー

2020/10/14

本日第5回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:10月14日13時半~16時頃

発表者1: 北林アキ(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻博士後期課程)
タイトル: 患者・市民の視点を踏まえた医薬品情報の提供を実現するための課題の検討

要旨:

医薬品は、品目毎に厚生労働省の承認を受けて初めて製造販売、すなわち市場に出荷又は上市できるようになる。しかし、承認前に得られる副作用等の情報は一般的に限られることから、承認後も引き続き情報収集することが、副作用の早期発見や適正使用のために重要である。
収集する情報源として、これまで主であった製薬企業や医療従事者からの情報に加え、患者から寄せられる情報の利点が注目され始め、副作用の早期発見や適正使用のために当該情報を規制当局の意思決定に活用する取組みが世界的にも進んできている。しかし、諸外国に比べて、本邦においてはこうした取組みが進んでおらず、大きく後れを取っているのが現状である。
そこで、本邦でこのような状況になっている原因を探り、状況の改善策の提案に繋げるため、本研究では、①患者・市民からの情報収集、及び②患者・市民への情報発信の2つの要素について、文献調査及び調査研究(アンケート調査)により現状を調査していく予定である。
本報告においては、患者から規制当局に副作用の情報を報告する制度に関する調査結果と共に、欧米の現状に関する調査を含めた今後の研究計画を共有したい。

発表者2: 飯田寛(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻博士後期課程)
タイトル: 企業による従業員の新型コロナウイルス感染の公表をめぐる諸課題の検討

要旨:

新型コロナウィルスの影響によって企業は事業継続のために在宅勤務や時差出勤の導入など様々な行動変容を強いられている。その全体像を把握するとともに、その行動変容が従業員に影響を与えていることがないのか、特にプライバシーやプライベートを侵害するようなことがないのか、その実態を把握し課題を整理することが研究目的である。
今回の発表では、感染症法等の法制度と企業との関係、新型インフルエンザ・結核・海外の扱いとの比較、先行研究の把握をしたうえで、企業の行動変容のひとつである感染者の公表について第一波と呼ばれる2020年初頭から5月末までの企業の感染者発表について情報を収集したのでその報告をおこなう。

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「LAW&PRACTICE」に刑事医療過誤に関する論文が掲載されました(船橋)

2020/09/24

特任研究員の船橋です。

このたび、「LAW & PRACTICE」に刑事医療過誤に関する以下の論文が掲載されました。

船橋亜希子
「刑事医療過誤」をめぐる20年―医療者と法律家の相互理解に向けた議論の整理―
LAW & PRACTICE14号, 47 - 70 (2020)

本研究分野の学際的研究環境での研究生活も早3年が経過し、これまで自身が扱ってこなかった手法に挑戦しました。

公共政策研究分野に所属していなければ、このような研究には挑戦できなかったと思います。

不十分であったとしても、現段階での検討を形にすることにいたしました。

現在の私の研究人生にとって、大事な論文となりました。


こちらからダウンロードが可能です(直接ダウンロードされます)。
https://www.lawandpractice.net/app/download/9309137576/14-3.pdf?t=1655784417

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情報学環・学際情報学府20周年オンラインイベントのご案内(10/17)

2020/09/18

10/17(土)東京大学ホームカミングデーにて、情報学環・学際情報学府による主催で、下記のオンライン・トークイベントが開催されます。
当研究室からは特任研究員の李(学際情報学府修了生)が登壇します。

情報学環・学際情報学府20周年イベント
「ディスタンス時代における『学際』とは」
What is "Interdisciplinary" in the Age of "Social Distancing"?

日時: 2020年10月17日 [土] 19:00-21:00
開催形式: Zoomウェビナー等によるオンライン開催(参加無料、要申し込み)
プログラム: 開会挨拶 越塚 登(情報学環長)
第一部 講演
落合 陽一(筑波大学准教授)
李 怡然(当研究室特任研究員)
渡邉 英徳(情報学環教授)
第二部 講演者による鼎談
参加方法: イベントの詳細およびお申込み方法等は、こちらをご覧ください。

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第1回患者・市民参画研究会を開催します

2020/09/09

病気や健康をめぐる研究開発の現場では、研究する側、される側の垣根を超えたパートナーシップのもとに、より良い研究を目指す「研究への患者・市民参画(PPI)」が注目を集めています。
では、PPIとは具体的にどのようなことを指すのでしょうか。国内では、誰がなぜ、どのように進めており、誰の参画が求められているのでしょうか。日本に適したPPIのあり方とは、そしてPPIが目指す「より良い研究」とは一体どのようなものなのでしょうか。参画すること、あるいは参画して頂くことに関心を持った場合には、どうすればよいのでしょうか。

そこで、PPIに関する知識を得たり、情報共有や意見交換を行ったりする場として、「患者・市民参画研究会」を企画しました。公共政策研究分野は、共催組織として参画しております。
国内において、このような場は極めて限られた状態にありますが、環境整備の第一歩になればと考えています。

今年度は、「脱・貴重なご意見ありがとうございました」というテーマを掲げ、シリーズ企画で開催します。

第1回目の詳細・申込については、以下のURLをご参照ください。皆様のご参加、お待ちしております(申込〆切:9/25(金)17:00)。
https://eventpay.jp/event_info/?shop_code=2586965081421033&EventCode=P056651978

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2020年第4回公共政策セミナー

2020/09/09

本日第4回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:9月9日13時半~16時頃

発表者1: 内山正登(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 客員研究員)
タイトル: ヒト受精胚へのゲノム編集に関する一般市民の議論への企画に向けて- ヒト受精胚のゲノム編集の研究利用および臨床利用のあり方に関する意識調査 -

要旨:

ヒト受精胚へのゲノム編集の利用に関する議論は、専門家だけでなく多様なステークホルダーによる幅広い議論の必要性が指摘されている。ヒト異常胚のゲノム編集を行った研究の発表や、ゲノム編集された受精卵から誕生した双子の女児に関する報道等を受けて、一般市民を対象とした様々な意識調査が行われているが、受精胚の研究利用に関する調査や一般市民・患者・医師の異なるステークホルダーに対して同じ調査項目による調査は行われていない。そこで、2019年には一般市民を対象とした受精胚の研究利用に関する調査を実施し、2020年に一般市民・患者・医師の異なるステークホルダーに対して同じ調査項目による調査を計画している。2019年の調査では、一般市民を対象として受精胚に関する認識や受精胚の研究利用の許容性などの調査を行なった。また、令和2年度厚生労働科学特別研究事業では、生殖細胞系列へのゲノム編集の臨床応用に関する、一般市民・患者・医師の異なるステークホルダーの態度を明らかにする意識調査を行なう。調査にあたって、調査対象者の意見形成を支援する教育資材として、ゲノム編集の技術の理解、リスク-ベネフィット評価、ELSIに関する啓発動画の作成を行なった。これらの意識調査の結果や教育資材の開発を通して、ヒト受精胚へのゲノム編集に関する一般市民の議論への参画に向けた課題について共有する。

発表者2: 楠瀬まゆみ(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻博士後期課程)
タイトル: 研究におけるデータ主体への支払いとベネフィット・シェアリング

要旨:

正義の原理に基づけば、科学技術研究やその発展で得られた利益は、それに貢献した人々とともに共有するべき(oughtto)であり、科学的進歩の貢献者と利益を共有しない場合それらの進歩は搾取である、との指摘がある。この議論は、ベネフィット・シェアリング(利益共有)と呼ばれ、主に発展途上国や先住民族の遺伝資源等から得られる利益の配分に関して語られてきた。他方、医科学研究において研究参加者との利益共有の議論はあまりなされてこなかった。特に試料・情報のみを用いた研究の多くは、研究参加者の利他主義や無償原則に依存してきた。しかし、"data is the new oil."のスローガンのもと、パーソナル・データやゲノムデータを収集し、利活用し、収益を上げることが可能となり、情報の資本的価値が高まっている。そして、場合によっては、個人のヘルスケアデータやゲノムデータが、データ主体の知らないことろで利益を得るために売買されることがある。そこで本発表では、研究に利用されるデータに特に注目し、これまでヒト対象研究においてなされてきた研究参加者への支払いの議論を参照しつつ、研究を目的としたデータの収集と利活用のためのデータ主体への支払いの是非について、ベネフィット・シェアリングの視点から検討を行う。

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「病院」に人工呼吸器トリアージに関する論文が掲載されました(船橋)

2020/08/01

特任研究員の船橋です。
このたび、「病院」にパンデミック下における人工呼吸器トリアージに関する以下の論文が掲載されました。

一家綱邦、船橋亜希子
COVID-19パンデミック下の人工呼吸器トリアージ問題にどう取り組むべきか
―学際的協働に向けた医事法学からのアプローチ
病院79巻8号, 610 - 616 (2020)

今年5月の緊急事態宣言下、COVID-19の感染拡大が懸念され、医療者が未曽有の事態への対応を迫られる中、法学者の取り組むべき課題、自分自身がアプローチできるテーマを考えて、重症患者が増大し、人工呼吸器等が不足した場合に迫られるトリアージ判断について考察しました。
一家(医事法学、生命倫理学、比較法研究対象国:アメリカ)、船橋(刑法学、医事法学、比較法研究対象国:ドイツ)という分担で執筆し、国内で問題が現実化する前に公表したいという強い思いから、限られた時間の中で、論旨や結論については、何度も何度も議論を重ねました。
多彩な先生方にもご意見・ご批判を賜りましたこと、ここで改めて御礼申し上げます。

このような判断が必要になる事態に至らないことを切に願います。

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2020年第3回公共政策セミナー

2020/07/08

本日第3回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:7月8日13時半~15時40分頃

発表者1: 高嶋 佳代(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻博士後期課程)
タイトル: 患者対象のFIH試験における倫理的課題の検討

要旨:

治療法の開発において初めて人を対象とする、いわゆるFirst in Human(FIH)試験では、治療法の安全性を確認することが主な目的となる。
一般的な薬剤の臨床試験ではFIH試験が健康な成人を対象とするのに対して、その治療法の特性によりFIH試験の対象が患者である場合、リスクベネフィットのバランスの検討はより複雑となる。なかでも、がん等のような生命に直結する疾患にくらべ、他に治療法がないが重篤ではない疾患での患者対象FIH試験については、そのリスクベネフィットバランスの検討が容易ではないと考えられるが、検討は殆ど為されていない。そこで本研究では、患者を対象としたFIH試験について理論研究を行い、その上でFIH試験に参加する患者やステークホルダーによる質的調査を行う予定である。今回は、主に質的調査に関する準備状況についての報告を行う。

報告2: 須田 拓実(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻修士課程)
タイトル: コロナ禍における公衆衛生上の措置と外国人労働者

要旨:

外国人の社会権の考え方や保障の範囲に関する論争は以前から見られ、国保と外国人の関係について国の制度の文言をめぐる裁判もあった。その背景には、在留資格の有無やその種類によって、労働資格や社会保障制度の利用に関する制約を受けやすいという要因がある。今回のコロナ禍では、職場の閉鎖・倒産に伴い在留資格を失った外国人労働者に向けて、既存の枠組みを例外的に流用することで、在留資格を延長し就労や社会保障制度の利用を可能にする取組が見られた。しかし、外国人労働者を想定したこのような措置は、日本人を想定した議論や対応より遅れていた。公的サービスの閉鎖に伴い「言語の壁」による問題も生じたと思われるが、コロナ禍での外国人労働者の医療へのアクセス状況や、感染の発生状況はあまり公になっていない。

今回のコロナ感染症の流行を踏まえて、以下の二点に特に注目している。ひとつは、外国人労働者を受け入れている職場の労働環境である。例えば、平時においても技能実習生のいる事業場の約70%で労働基準関係法令違反が見られ、健康診断や寄宿舎の安全基準に関する違反事項も含まれる。そのような環境下では、平時でも起こり得る課題に加え、外国人労働者の感染が疑われる場合の診断へのアクセスが担保されていたか疑問が残る。また、感染者に外国人労働者が含まれる場合の情報共有・公表に関しても、外国人であるが故の課題が浮上したのではないかと考えている。ふたつは、外国との人の行き来を再開する際、「労働力の確保」と「感染症対策」を如何に両立していくかという点である。感染症の水際対策として、外国人労働者に来日前の結核検査や健康診断が義務付けられてきたように、コロナ感染症が引き続き問題になる中で、どのような形で海外から労働者を受け入れていくかを検討する必要がある。本発表では、以上の問題意識と、それらに関する調査の暫定的な方向性を共有したい。

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新型コロナウイルス感染症の行動変容に関する論文をPLOS ONEに公開しました(武藤)

2020/06/11

東京大学医科学研究所 武藤香織教授と慶應義塾大学商学部 山本勲教授は、慶應義塾大学経済学部 長須美和子特任講師、国際医療福祉大学 和田耕治教授、早稲田大学大学院政治学研究科 田中幹人准教授と共同で、日本の一般市民を対象に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐための行動変容に関する質問紙調査を実施しました。6月11日にPLOS ONE誌に公開されました。

日本では、新型コロナウイルス感染症は、感染症予防法で「指定感染症」と位置付けられており、新型インフルエンザ特別措置法ではまん延の恐れがある場合に、場所の使用制限や行動自粛を要請することが可能です。日本では、「市民の行動変容」を求める政策をとっていましたが、そこで、この調査の目的は、日本の人々がいかにして、またいつから行動を変えたのかを明らかにすることとしました。

調査方法は、日経マクロミル社のパネルを用いて、労働力調査と同じ分類の20歳から64歳までの11,342名から回答を得ることができました。調査期間は、2020年3月26日から28日まででした。その結果、85パーセントの回答者は、政府が要請している行動変容を実践していると回答しました。多変量解析の結果、男性よりは女性、若年層よりは高年齢層のほうが実践をしていると回答した割合が優位に高い傾向にありました。例えば、頻回な手洗いは、全体で86%の回答者が実践していると回答していましたが、女性の92%は、40歳以上の人々の87.9%が回答していました。こうした予防的な行動に最も大きな影響を与えた出来事は、2020年2月上旬のダイヤモンド・プリンセス号内の集団感染と答えた人が最も多く、23%にのぼりました。政府や都道府県からの情報は、全体の60%が摂取しており、信頼度も他の情報源に比べると高いものでした。

しかしながら、全体の20%の回答者は、3月下旬においても予防的な行動を行っていないと回答していました。男性、30歳以下、独身、低所得、飲酒習慣または喫煙習慣、外交的な性格といった属性が関与していることがわかりました。第1波において日本で感染拡大を防止するためには、まだ予防行動を始めていない人を啓発することが重要との示唆を得ました。

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2020年第2回公共政策セミナー

2020/06/10

本日第2回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:6月10日13時半~16時頃

発表者1: 船橋亜希子(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 特任研究員)
タイトル: 治療中止・差控えの法的責任について、改めて考える

要旨:

治療中止・差控えの正当化は、刑法・医事法において重要な論点の一つである。2020年3月にドイツで公表された、臨床倫理に関する勧告「COVID-19パンデミックに関連する救急・集中医療における資源配分に関する決定」および、臨時勧告「コロナ禍における連帯と責任」とこれらの勧告に関する議論を契機として、日本における治療中止・差控えの法的責任に関する議論を振り返りながら、整理・検討を行う。

発表者2: 河合香織(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース 修士課程)
タイトル: 遺伝的特徴と結婚出産の助言-遺伝医療の専門家はどう語ってきたか

要旨:

遺伝医療の専門家が、結婚や出産について医療従事者や患者・家族に対してどのように助言してきたかを検討する。戦前から今日まで本課題に関連して網羅的な文献調査を行ったうえで、80年代の文献として遺伝性疾患の医療者と患者に対して結婚出産に関する助言を行っている記述が見られる『患者と家族のためのしおり』(厚生省特定疾患難病の治療・看護調査研究班編,1982)、医療者向けの助言の記述がある『遺伝性疾患への対応』(大倉興司編,1985)を取り上げ、これらの内容と、現在「難病情報センター」(https://www.nanbyou.or.jp)で公開されている内容を比較し、その助言の変化を検討した。本セミナーではその結果と考察を発表する。

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恒例となりました活動報告会をオンラインで開催します(6/21)

2020/06/09

例年開催しております当研究室の活動報告会の日程が決まりましたのでお知らせいたします。今年度はオンラインにて開催します。

日時: 2020年6月21日(日)14時開始(2時間程度)
方法: オンライン会議システム・Zoomによる配信
内容: 1.研究室の紹介
2.所属する研究者による活動紹介 ※発表は各自15分程度。
  1. 永井亜貴子:がん遺伝子パネル検査に関する期待と懸念-インターネット調査の結果より
  2. 李 怡然:遺伝性のがんについて家族にどう「告知」するか
  3. 木矢幸孝:保因者における遺伝学的リスクの捉え方
  4. 船橋亜希子:医療現場における医療者の刑事責任
  5. 井上悠輔:医師・市民は医療でのAI(人工知能)利用をどう思っているか?
  6. 武藤香織:あらためて/これからの患者・市民参画(PPI)
3.質疑

★当日の質疑は、Zoom内でお受けいたします。

<申し込み方法>

参加をご希望の方には事前登録をお願いしています。参加をご希望・予定の方は、メールのタイトルを「21日午後・活動報告会参加希望」としていただき、メールの本文に①お名前②ご所属③当日の緊急連絡先を記載して、下記アドレスまでご連絡ください。
(事前登録)

お申込み締め切り 6月20日(土)
※お申込みいただきました方には、開催までにzoom参加のためのURLをお送りいたします。

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武藤研オープンラボのご案内(学際情報学府 文化・人間情報学コース)(6/21午前)

2020/06/01

学際情報学府文化・人間情報学コースへの進学を検討されている方へ

兼担教員の武藤香織および在籍者、修了者とのオンラインミーティングを企画しました。
大学院生が実施している研究のテーマや大学院生活などについてご紹介し、みなさまからの質問や相談に応じます。

日時: 2020年6月21日(日)9時30分から11時頃
参加方法: オンライン会議システム・Zoomを利用します。
申込み: ご参加を希望される方は、件名(タイトル)、①~④をお書き添えの上、下記メールアドレス宛までご連絡ください。
後日、参加用のURL等をご案内いたします。
【件名】:武藤研オープンラボ(学際情報学府)参加希望
①お名前 ②ご所属 ③緊急連絡先 ④備考(ご参加される時間帯など)
E-mail:
申込み〆: 2020年6月20日(土)

なお、このイベントは、情報学環・学際情報学府20周年記念「オープンラボ・ウィーク」行事の一環として行われます。

ご関心のある方は、どうぞお気軽にご参加ください!

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2021年度大学院進学について(5/31更新)

2020/05/31

公共政策研究分野では、以下の2つの大学院における修士(博士前期)・博士のそれぞれについて入学・進学を受け入れています。

1.新領域創成科学研究科

メディカル情報生命専攻 医療イノベーションコース
担当教員:武藤、井上
https://www.cbms.k.u-tokyo.ac.jp/lab/muto.html(研究室情報)
https://www.cbms.k.u-tokyo.ac.jp/admission/schedule.html(入試)

2.情報学環・学際情報学府

文化・人間情報学コース
担当教員:武藤
https://www.iii.u-tokyo.ac.jp/faculty/muto_kaori (受入教員の情報)
http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/news/2020053111853 (6/20 入試説明会)

新型コロナウィルス感染症の流行に伴い、入試説明会の開催中止や延期、入試募集要項の変更の可能性がありますので、出願にあたっては、必ず各大学院ウェブページで最新入試情報をご確認ください。

現在、オンラインでの公共政策研究分野の研究室説明会の開催を検討中です。

出願にご関心のある方は、個別に対応いたしますので事前にご連絡をお願いいたします。
研究計画書(書式自由・できるだけ具体的にお願いします)とともに 宛てにお送り下さい。

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2020年第1回公共政策セミナー

2020/05/13

本日第1回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:5月13日13時半~16時頃

発表者1: 木矢幸孝(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 特任研究員)
タイトル: 遺伝学的リスクの意味づけにかんする別様の理解可能性

要旨:

1970年代以降、医学における疾病論は特定病因論から確率論的病因論へとシフトチェンジし、確定診断や発症前診断、非発症保因者診断といった遺伝学的検査の発展もあいまって、私たちは自身の遺伝学的リスクと向き合うことを可能とする社会に生きている。これまで、多くの研究は遺伝学的リスクを有する個人が自身の出産や子どもに対して罪悪感や責任感といった諸問題を抱えていることを主として明らかにしてきた。しかし他方で、同じ病いの遺伝学的リスクを有しているにもかかわらず、そのリスクを「大きな問題」と捉えていない人々が少数ながらいることも示してきた。この差異はどのような要因から生じるのであろうか。どの先行研究も遺伝学的リスクの意味づけというリスク認知の問題は決して一様ではないことに注意が払われているが、上記の問いに答えてくれるものではない。本稿は、N.ルーマンのリスク概念と危険概念を導きの糸としながら、この問題を考察することで、遺伝学的リスクの意味づけに差異が生じる要因の整理を試みる。

発表者2: 武藤香織(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 教授)
タイトル: 新型コロナウイルス感染症の公表基準に関する検討

要旨:

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、感染症予防法において指定感染症に指定され、厚生労働大臣及び都道府県知事には「当該感染症の予防及び治療に必要な情報を新聞、放送、インターネットその他適切な方法により積極的に公表」すること、「公表にあたって個人情報の保護に留意」することが求められている。しかし、地方公共団体による公表方法や項目は様々であり、必ずしも予防や治療に資さない情報まで公表する例もある。さらに、感染者の人間関係を相関図として報じた報道機関があるほか、同一の事案でも報道機関によって報じ方が異なった例もあった。他方で、詳細な情報の公表を地方公共団体や報道機関に求めるのは、地域住民や読者/視聴者でもある。本報告では、公表基準を手掛かりとして感染者らへの偏見や差別に対抗する道を模索することを目的とした論点を検討し、都道府県等による公表内容に関する調査の手法や途中経過を紹介する。

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2019年第10回公共政策セミナー

2020/03/11

本日第10回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:3月11日10時~12時半頃

発表者1: 小林智穂子(東京大学大学院学際情報学府文化・人間情報学コース 博士後期課程)
タイトル: 高齢者は福祉の担い手になりうるか-高齢者のボランティアに関する調査より-

要旨:

超高齢社会を迎える日本においては、高齢者の自宅での暮らしを維持するための日常的な生活支援ニーズの増加が見込まれている。これらは行政によるサービスでは充足できないため、地域包括ケアシステムを構築する政策がすすめられている。地域包括ケアでは、高齢者の社会参加が、福祉の支え手の充足としても、自身の介護予防観点からも期待されている。高齢者の社会活動状況調査によれば、高齢者の地域活動・社会貢献活動への参加意欲は高いが、福祉の支え手の充足に繋がる、定期的なボランティア活動は明らかではない。そこで、中高年者・高齢者を対象に、ボランティア活動への参加の現状、参加の促進・阻害要因を明らかにするため調査会社に委託し質問紙調査を行った。セミナーでは、これらの調査の結果と考察を中心に報告を行う。

発表者2: 渡部沙織(東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野)
タイトル: 難治性疾患患者の研究参画における諸課題

要旨:

本研究の目的は、ジェネティック・シティズンシップ(遺伝学的市民権)に基づく難病患者の研究参画について、政策的基盤整備のための課題を明らかにする事である。科学と患者、医療市場の関係性における新たなシティズンシップとして研究参画を捉える諸先行研究のパースペクティブを踏まえ、日本における患者を中心とする研究参画の実相と課題について調査分析した。2018年から2019年の間に実施した難治性疾患の研究者と患者会を対象とした意識調査、及び日本・アメリカでの事例研究を通じて、日本の研究参画に関する実情や、それぞれの障壁について分析を行った。患者会も研究者も、患者が研究に参画する事の研究側のメリット(試料収集の効率化、アンメットニーズの把握、より患者の視点に即した研究デザインの実現など)を把握し、研究参画の推進に対する肯定的な回答が多数派を占める。しかし、日本の患者会の組織運営基盤は常勤スタッフのいないボランティアの運営が主流で、財政や労務の負担を誰がどう担うのかが大きな課題となっている。研究費や国費でサポートを実施する事についても政策的検討が必要であり、また医学研究に関する基本的なリテラシー教育の提供機会も求められている。アメリカや欧州の事例との⽐較等に基づいて、科学政策として独⾃の関係諸法令やガイドラインの整備が今後必要とされる。

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延期のお知らせ:「バイオバンク・ジャパン 見学・意見交換会」(3/15)は延期とさせていただきます

2020/02/25

※本イベントは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、延期とさせていただきます。

バイオバンクとは、患者さんからいただいた生体試料・情報を使って研究するための基盤です。バイオバンクの未来や運営などについて、私たちと一緒に考えていただける患者さんとそのご家族を募集します。

“バイオバンク”という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。患者さんには馴染みの薄い存在かもしれません。“バイオバンク”は、一般の方々や患者さんからご提供いただいた生体試料や情報を保管する倉庫やデータベースを保有し、主に基礎研究を支える基盤とされています。“バイオバンク”のひとつである、バイオバンク・ジャパンは、患者さんからいただいた生体試料や情報を多くの研究者に提供しており、それらをもとにして様々な研究成果が生み出されています。この会では、“バイオバンク”の生体試料や情報を未来の研究へ活用していくことへの期待や不安について一緒に考えたいと思います。


日時: 2020年3月15日(日)13時00分~16時00分(受付開始12時30分~)
延期とさせていただきます。
会場: 東京大学医科学研究所 1号館1階講堂(東京都港区白金台4-6-1)
対象: バイオバンク・ジャパンの対象疾患があるご本人とそのご家族
(前立腺がん、関節リウマチ、気管支喘息、アトピー性皮膚炎など)30名
*バイオバンク・ジャパンの対象疾患は、こちらからご確認ください。
申し込み: 事前のご登録が必要です。下のボタンをクリックしてお申し込みください。
定員に達しましたらお断りする場合がございます。
なお、車椅子ご利用の場合、施設の構造上、見学ができない場合がございますので、申込時にご連絡いただけますようお願いいたします。>
プログラム: 【講演1】
バイオバンク・ジャパンの運用の現状について(森崎 隆幸 東京大学医科学研究所)
【講演2】
バイオバンク・ジャパンにおける倫理面への配慮について(永井 亜貴子 東京大学医科学研究所)
【見学会】
バイオバンク・ジャパンが保有する、DNAバンク、血清・血漿バンク、組織バンクの見学を行います。
【意見交換会】
バイオバンクの将来や運営、ゲノム解析研究について、一緒に考えましょう。

ご案内のチラシは、こちらからダウンロードできます。


お問い合わせ先:東京大学医科学研究所 公共政策研究分野
TEL03-6409-2079(月~金:10時~16時)

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『社会志林』に「非発症保因者の経験」に関する論文が掲載されました(木矢)

2020/02/19

特任研究員の木矢です。

このたび、『社会志林』に非発症保因者に関する以下の論文が掲載されました。

木矢幸孝
非発症保因者の積み重ねてきた経験
――恋愛・結婚・出産の語りをめぐって
『社会志林』第66巻第3号, 195-217.(2019.12)

遺伝/ゲノム医療における技術の進展は、確定診断・出生前診断・非発症保因者診断等といった医療技術を可能にし、私たちに遺伝学的リスクを考慮する「生」を歩ませています。今後、人々は遺伝学的リスクとますます向き合うことになると考えられますが、実際に遺伝学的リスクによってどのような課題や問題が浮上するのでしょうか。

これまでの研究では、遺伝学的リスクを有する個人の葛藤や苦悩が主として検討されてきました。ただ、個人の生における一時点の諸問題を取り上げることが多く、遺伝学的リスクに対する問題意識の移り変わりとその帰結が明らかではありませんでした。

そこで本稿では、遺伝学的リスクを有する個人、「非発症保因者」(以下、保因者と略記)に焦点を当て、10代に告知を受けてから30代で結婚するまでの時期における「恋愛・結婚・出産」の観点から保因者一人の経験を詳細に検討しました。

結果、保因者は遺伝学的リスクに悩みながらも試行錯誤し、アイデンティティを再構築していることが分かりました。同時に、遺伝学的リスクに対して結婚や出産を諦める位置から結婚し出産を意識するところまで変化があることが明らかになりました。

本稿では、アイデンティティの再構築や遺伝学的リスクに対する捉え方の変化を詳しく把握することはできましたが、一人の事例の検討にとどまっています。今後はより普遍性のある議論に接続していければと考えています。

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